蝉が鳴くのを聞いて高校生の頃を思い出した

やっと暑さが和らいだ。

ここの所、猛暑日が当たり前になっていて照り付ける太陽の日差しを避け無ければ、いつかコンガリと焼けてしまうかと思えるほどだった。暑すぎると動物も動かなくなるのか、これまでは蝉の鳴き声は元気をなくしていたように思えたのだが、今日は鳴くことが出来なかった時間を取り戻そうとしているかのように激しく鳴いている蝉の声に対して、今だけだからがんばれよ。とエールを送ると共に完全に騒音と化している蝉の声のアーチをくぐり抜けて会社に到着した。

 

蝉たちはやりたい事をやって死んでいくし、やりたい事が出来なくても他の蝉が代わりに子孫を残してくれる。全体ではそれで問題ないだろうし、来年も再来年も同じように頑張って鳴き声を上げるのだと思う。恐らくやりたい事は子孫を残す事だけなんだよな。長生きしたいとか微塵も思ってないんだろうな…そんな事をぼーっと考えていたら、ふと高校時代の事を思い出した。私は学区内では中の上といったレベルの高校に通っていた。その中での成績も並みという感じだったので、どこかの大学に入れれば御の字だなと思っていた。順位はついていたけれど、みんな大学に行くというゴールを目指して横並びで頑張っていた。自分は帰宅部だったので、「もう辞めたいよ」と笑顔で言うバスケ部員に対して心の中ではさっさと辞めればいいのに。と思っていた。やりたい事があるならやりたいでいいのに。楽しいなら楽しいでいいのに。そう思いモヤモヤした気持ちは表に出さないで、空返事をしていたように記憶している。自分のやりたい事は何だろうかと良くわからなくなっていた。ゲームが好きだったしパソコンも好きではあったので、そちらの方面を目指すのが無難だろうと思っていた。まぁ、思っていた通りでは無かったのだけど、結果的に就職したらSEになっていた。

 

高校生の頃、高校生のうちにやりたいと思う事を決めてしまうのはリスクがあると思っていた。挫折した時に方向転換が出来なくなってしまうからだ。そう思っていたのに文系・理系の選択は迷うことなく理系を選択した。それは学ぶ事の楽しさよりも点数の取りやすさを採用したに過ぎなかった。点数が取れるという事はそれなりに理解できているという事で、得意な気もしたし、好きだと言う気もした。それはそれで間違いではなかったし、それが今に続いているのだから結果オーライと言えなくもない事ではあるのだけど、今考えれば、考えたフリが得意だったんだなと思えて仕方が無い。本当にやりたい事を探すというのは容易では無くて、それを自分で決める事は難しくて、親のためとか世間的な事、就職しやすさとか、高校生でちっせー事を知ったかぶりで考えていたなと・・・思い出すと恥ずかしくなってくる。

 

大声で鳴く蝉たちは、みんな違う声を上げているつもりだし、実際におのおのが違う声を出しているのだろうけど、人間から見れば全部同じに聞こえてしまう。それも、数が多くなればなるほど、騒音としか思えなくなってしまう。高校生の自分達も同じように声を上げていたけれど教師たちから見れば、蝉たちとそんなに変わらなくて代わり映えしなかったんだろうなと思う。だから、自分が高校生の時に下手な理由を付けて、その先の人生を選択する事は取るに足らない事だったのだと思う。結局、大したリスクなんてものは無くて、どの選択肢をとっても大差はなかったんじゃないかと。だからこそ、もっと色んな事を考えた方が良かったなとも思えてくる。これがやりたいって思い込んで失敗しても、いくらでも取り返しがついたはずなんだから。

 

蝉たちは声を上げては、カラスに食べられたり、子供たちに捕まったりしている。声を上げる事はリスクと隣り合わせなのだけどやりたくてしょうがない事なのだ。やらなくてはならない事なのだ。私は結婚して子供ができて家のローンもできて、背負いきれない程のリスクを背負ってしまった。これ程のリスクを背負えるのなら、高校生の時はもっともっと色んな人生の選択肢を持つ事が出来たんだろうなと思うのだ。今なら、そう思えるのだけど、果たして自分の子供たちにはうまく伝える事が出来るだろうか。そして突拍子もない選択肢を選んだ時、心から応援してあげられるだろうか。まだ、もう少し先の事だから子供の成長を見ながら考えておきたいと思う。

 

高校の同級生の言っていた一言をふと思い出す時がある。「人間は死んだら生き返らない事になっているけど、前例がないだけでオマエが人間で初めて生き返る可能性だってゼロではないんだぞ。やってみろとは言わないけど。」これを言った友人をある種の問答みたいな事を言うヤツだなと思った。何でもやってみなきゃ分からない。でも取り返しがつかない失敗が有るかも知れない。逆を言えば、死んでしまうような取り返しのつかないリスクが無いのなら、何でも挑戦してみればいいって事なんだよな。

自分は全く行動できていないのだけど。

 

 

おしまい。