お金以外の理由で定年後も働けるだろうか

 

「暇だから、もう少し働こうと思って。」

 

こんな趣旨の発言をしたのは、定年退職したマネージャーです。酒が好きで、定期的に居酒屋で飲んでいるようでした。私の会社では数多くの人が早期退職を選び、多忙な仕事生活からの脱出を試みるというのが通例になっているにも関わらず、この方は雇用延長の選択をされました。(したがって現在はマネージャではありません。)
あり得ない…個人的には、全くあり得ない選択肢と思いました。同じ職場にとどまるからには、給料がガクッと減っても責任を放棄できるわけではありません。会社の身分は平社員と同等ですが、ご本人にもプライドがあり周りからの扱いも大きく変わるわけではないからです。今の仕事はそれなりに残業も多く、定時後を自由に使えるわけではありません。それでも、金を稼いだ方が、会社に勤めた方が良いと言うのです。

 

恐らく、それなりに給料を貰っていたから躊躇せずに飲みに行けたのでしょうし(飲み過ぎで体調を崩されていましたが…。)子供も大きくなって手もかからなくなっているから、自由になる時間も多かったのだろうと想像しています。家庭の事は人それぞれなのでゲスイ想像をする必要は無いのですが、どこの家庭も似たり寄ったりな部分はあると思います。だからこそ、これまでの人生で家族と触れ合う時間はどれくらいあったのだろうか…と考えてしまうのです。自分も歳を取って仕事が楽になったらもっと家族の事を考えようと思っていました。20代、30代とそれは仕方が無いと思っていました。いざ40代になると、自分の考えが甘かったなと感じる事が増えました。

 

  • 親の寿命はそれ程残されていない。
    40歳になった時点で親は70歳に近いです。0歳の子供が10歳になった事を頼もしく思えたとしても、60歳から70歳になった親は、のこり10年か20年か・・・と心細く思えるばかりです。
  • 子供は相手をしてくれなくなっていく。
    小さい頃は何をするにも手間がかかったので、必然的に子供の近くにいる事が多くありました。しかし子供が大きくなれば手間もかからなくなり、何を考えているのかも分かりにくくなります。

 

結局、歳を取ってからいきなり新しい事を始めるのは難しくて、20代30代で思っていた事が、40代50代になってできるわけじゃないのです。もちろん自分だけの事であれば、好きにやれる事もあると思いますが、人との付き合い方・・・特に家族との付き合い方は長い年月をかけて培われるものだから、おいそれと変える事は難しいように思うのです。今しかやれない(と思わないとダメな)事って多いと思います。そういう事をいつも気にしてこないと「暇だから仕事をする。」というような状態になってしまうのかなと思うのです。もちろん本人が幸せならば何も言う必要は無いですし、自分の人生は好きにするべきですが、それなら「この仕事が好きだから、続けているんだ。」と言えるような思いがないと、何のために仕事を続けてきたのだろう…と思ってしまわないか心配になってしまいます。もはや定年が70歳になるかも知れないこのご時世ではあるものの、60歳、70歳なりの働き方はあるんじゃなかろうかと思うばかりです。

 

同じところで留まる事が出来ると思うのは、何も考えていないか強い自信があるからだと思います。5年、10年と同じ事をやって来たのであれば色々な事を熟知しているという自負があるでしょうし、周りからも一目置かれる人材である事は間違いないと思います。(例外も多々あると思いますが、ひとまず横に置いておいて。)しかし逆に言えば、他の場所で働かせることが難しくなっているとも言えるのです。留まっていた事に理由はあって、A.他の場所ではうまく使えなさそうだった。B.ベテランになりすぎて交代要員を用意できなかった。という2点だと思います。概ねAが先に来て、Bの状態に陥っている事が多いようでしょう。組織も人間もいつかは終わりが来る事は理解しているのだけど、組織として見て見ぬふりをする事が多いのではないでしょうか。何かを変えれば問題が起こる可能性は高くなります。「事なかれ」のために固定化されてしまった人材は新しい事を知らないまま、今の仕事により深く没頭してしまうと思います。それが末永く続く事であれば良いと思いますが、なかなかそういう訳にはいかない時代になってしまったと思うのです。そういう事に気づかぬまま、定年を迎えられる事は幸せなのだと思います。しかし、途中で放り出される事になった途端、周りの事を何も知らない人になってしまうため、「自分の居場所がない。」という事になってしまいます。

 

平穏な暮らしをしたいと思って、現状が大きく変わらない事を願う自分もいるのだけど、それは将来の自分・・・60歳、70歳の自分が本当に求めている事なのか考えないといけないだろうと思うのです。40歳の時にやっときゃよかったなと思う事をいかに想像して、今、実現させないと取り返しのつかない事になるだろうと。20代30代の延長線上に40代がいるわけじゃなくて、もはや破線になっている人や急上昇している人、底辺まで行ってしまった人  などなど、 人によって全く違う方向を向いているのだと思います。

恐らく、いま考えている事と60歳になって考えた事は違うだろうと思います。でも、60歳になってから考えるよりも60歳になった時の自分を想像して考えておいた方が後悔は少ないんじゃないかと思います。60歳になる前に概ねやりたい事をやってしまって、それでもなお仕事をしたい(するしかない)のであれば、ボチボチ仕事をしていきたいと思います。それは暇だからという理由では無くて、「やりがいがあるから」という理由で出来る仕事であって欲しいと思うのです。

 

 

おしまい。